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序
「期待される人間像」これは、先に発表された文部省中央教育審議会の、中
等教育の理念となる理想の人間像に関する答申案の中間報告の一課題でありま
す。これが発表されるや、その内容もさることながら「期待される妻の像」と
か「期待される夫の像」とか、流行語が出るほど騒がれました。この「期待さ
れる人間像」の各章の内容こそは、私が昭和二十一年実践倫理宏正会を創設以
来、
「人として必ず守るべき自然の筋道」すなわち、実践倫理の理念として、
各地において講演し、また機関誌に発表し、二十年間説き続けてきたことと、
用語の違いこそあれ、ほとんど同一の理念に基づくものであるといっても、決
してはばからないものであります。言い換えれば、終戦後の社会の混乱、退廃4
おもんぱか
りょう
した道義、あの時から今日の経済成長時代までの社会の歩みを正しく見つめ、
国民教育、社会道徳の将来を慮る人ならば、この審議会の発表をいずれも諒と
するものと思います。
中央教育審議会は、
「期待される人間像」の発表を中間報告とし、日本人全
部がこの問題を考えるように提供したものであるということで、これまでに新
聞にも雑誌にも、批判が載せられています。またこれの最終審議までには、多
くの学者や知識人の意見も反論も出され、論議も幾度か重ねられ、そして、よ
り良いものが再び発表されることでしょう。がしかし、批判は単なる批判にな
りがちで、審議会は審議の結果を発表して終わりとなり、残されたものはただ
「期待するのみ」では何らの価値もありません。要はその後の実践にあり、国
民こぞって実践してこそ、教育的成果が得られるものであることはいうまでも
ありません。
私は本会創設以来、実践倫理(生活倫理)による社会道義の確立を提唱し、
不自然な生活態度から不幸に陥る人々に、倫理の実践に励むことが、人として
の生活の道であることを説き、家庭愛和、平和社会の建設を目指して微力を傾5
けてきたのであります。
本書は、その間に全国各地において講演したものの速記録の一部と、本会機
関誌『宏正』に発表したものの一部に加筆し、収録したもので、基礎編、社会
生活編、家庭生活編と分類したものの、一つ一つの項目は、それぞれ関連を持
者
識
つものであります。本会の趣旨を諒とせられ、道義の高揚に、また人づくりの
一助としてご愛読くだされば幸いであります。
昭和四十年十一月
吉 祥 寺 に て
著6
改訂新版の刊行に際して
実践倫理叢書の軽装版発行は、多年の課題であり、各方面より刊行が待たれ
たのでありましたが、このたび私の、抜本的監修のもと、いささか加筆訂正を
加え、このような、より親しみ易い形で江湖にまみえますことは、既往の重版
実績の上に、さらに大いなる声望を加え得るものと自負し、喜び一入のものが
あります。
ご承知の如く本叢書は、私の父、初代上廣哲彦会長が、旧くは三十数年前、
実践倫理開顕、本会創立の余勢を駆り、早々の間に執筆彫琢をし、刊行後は倫
理文化の明けの明星として、幾多の同学の士に希望を与え続けて、今日に至っ
た書籍であります。7
実践倫理の不変永続の理想から、いま新時代即応の実践学習の書、座右の書
として、改めて真価を世に問う企てとすべく、読破体現の上は、一人でも多く
同憂の士にご吹聴ご推輓くださることが、社会風教の上から好ましいわけであ
ります。
本書刊行には細かく意を用いておりますが、尚ご高見を得て、より完璧なる
上
廣
榮
治
識
国民心の原典へと版を重ねてまいりたく、心からのご協力を期待してやみませ
ん。
昭和五十三年六月二十日
会 長8
基
⟌
次
倫理実践とは
⟋⟐
目
倫理と宗教
⟎⟌
編
平和実践を願って
⟏⟌
礎
人格と幸福について
守るべき筋道
⟑⟏
⟐⟌
―― 実践倫理創設の目的 ――
和の本態次
9 目
日常生活と倫理文化
真の感謝と奉仕
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先手必勝
我慢について
信頼される人になれ
迷信について
青少年の心情を思う
姿勢を正す
一貫して人づくり
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社 会 生 活 編
社会と個人と倫理10
「
習う」ということ
導ける親であれ
給与と愛和の生活
青少年と精神の健康管理
嫁と姑が手を結ぶとき
期待される人間群像
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日常生活の再検討
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家 庭 生 活 編
母親と朝起会の意義