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は じ め に
近年、社会的に忌まわしい問題が起こると、
倫理云々という言葉が、
新聞など
に見られるようになり、
政治家の倫理的理念がどうとか、
出版倫理規制がどうで
ひんしゅく
あるとか、
というような記事が見受けられます。これまで、
野放し状態にあった
法律以前の顰蹙すべき問題等が、次第に許されなくなりつつあることは、一般
にも倫理道徳の問題に関心を持つ人々が多くなって来たということであります。
倫理というと、言葉の意味からも、何か堅苦しいものを感じさせられるとい
う人もありますが、本講座では決して堅苦しい話をするつもりはありません。
殊に、ここでは気がるに読んでいただき、日常どこの家庭でもお気づきになる
こと、また見過ごされているようなことの中に、大切な生活のあり方が含まれ4
ていることに気づいていただき、倫理的生活の手引きとしていただきたいと思
実践倫理とは、率直に申せば幸福への道であります。概して社会は複雑で、
います。
日々変わっておりますから、どこの家庭でも幸福な日々ばかりが送れるもので
はありません。病人が絶えない、商売の不振、嫁と姑の問題、家庭の不和等々、
苦難の種は枚挙にいとまがありません。しかも、それらは同時に迫って来る場
合が多いといえましょう。
しかし、何事も原因なしに突然発生するものではなく、必ず起こるべき原因
があり、自ら反省し、改めるべき場合も多々あるのが通例で、
「社会が悪いの
だ」などと、うそぶいていられるものばかりではありません。むしろ「己の蒔
いた種は、己が刈らねばならない」と、苦しむものもありましょう。こんな種
は蒔きたくないものであります。
実践倫理とは、苦難の解決も一面に備えてはおりますが、何といっても第一
努力する「生活の道」であります。ひいては明るい社会建設のためであり、美
義は、何事にも一歩踏み込み、自ら解決のために、あるいは目的のために実践5
しく楽しい家庭の実現につながるものであります。一日一日の人々の正しい行
ないの積み重ねこそ、明るい生活、愛和な家庭を築く第一歩であります。人と
人とが争わず、夫婦、親子、兄弟はむろん、政治、経済、教育、宗教等、あら
ゆる分野において、清く正しく、是は是、非は非と認めて、
「我」を捨て、協
調と協力を持つことが、実践倫理の真の姿であります。
昭和二十一年、戦後の青少年の破廉恥な行動に驚き、道義の顧みられない世
相を憂うるのあまり、次代を担う青少年の善導は親たちの倫理実践にある、と
標榜し、青少年の健全なる育成を叫んで立ったのが、私の実践倫理宏正会結成
の動機であります。以来二十余年間、社会道義の確立を提唱して、不自然な生
活態度から不幸に陥る人々に、真実に生きる道を教え、倫理実践に励むことこ
そ、人としての正しい生活の道であることを説き、家庭愛和を基礎とした平和
社会の建設を目指して、文字通り東奔西走して来たものであります。幸いにも
世の入れられるところとなり、逐次会友の数も増加し、各界の有名人・知識人
の理解と賛同も得られて、今日では全国に支部支舎百十二か所、アメリカに二
か所、会友は約百八十万の一大倫理運動となったのであります。昭和四十年秋6
には、文部省より不肖私に藍綬褒章受章の恩命を賜わり、唯々感慨無量という
ほかありません。と同時に、私をして今日あらしめ、育みくださった会友各位
に心から厚くお礼を申し上げると共に、謙虚に今後の活動をもって、報いさせ
ていただきたいと思います。
本書は、以上述べました戦後二十余年間の私の各地における講演及び座談会
等の質疑応答の速記録をもととし、加筆して会話形式にまとめたもので、全体
は一○○章にも及んでおりますが、まずその第一集として出版の運びとしたも
識
のであります。本会及び実践倫理の趣旨をご理解いただき、社会道義の高揚に、
者
家庭愛和の一助としてご愛読いただければ幸いであります。
昭和四十二年一月
吉 祥 寺 に て
著7
第二集「はしがき」(抜粋)
本講座は、第一集から読まれることが望ましいのですが、必ずしも、第一集
から読まなければ理解できないというものではありません。多忙な日常生活の
合間に、気がるに一章ずつ読まれても、倫理生活の一端を身近に認識して、実
践への手引きともなるように、努めて平易に書きました。8
改訂新版の刊行に際して
実践倫理叢書の軽装版発行は、多年の課題であり、各方面より刊行が待たれ
たのでありましたが、このたび私の、抜本的監修のもと、いささか加筆訂正を
加え、このような、より親しみ易い形で江湖にまみえますことは、既往の重版
実績の上に、さらに大いなる声望を加え得るものと自負し、喜び一入のものが
あります。
ご承知の如く本叢書は、私の父、初代上廣哲彦会長が、旧くは三十数年前、
実践倫理開顕、本会創立の余勢を駆り、早々の間に執筆彫琢をし、刊行後は倫
理文化の明けの明星として、幾多の同学の士に希望を与え続けて、今日に至っ
た書籍であります。9
実践倫理の不変永続の理想から、いま新時代即応の実践学習の書、座右の書
として、改めて真価を世に問う企てとすべく、読破体現の上は、一人でも多く
同憂の士にご吹聴ご推輓くださることが、社会風教の上から好ましいわけであ
ります。
本書刊行には細かく意を用いておりますが、尚ご高見を得て、より完璧なる
上
廣
榮
治
識
国民心の原典へと版を重ねてまいりたく、心からのご協力を期待してやみませ
ん。
昭和五十三年八月六日
会 長10
目
苦 痛
⟌⟉
⟊⟒
⟌
次
我境一体
家庭生活の夜明け
病気の本性
⟎⟍
⟐⟌
夫婦愛和
今日は最良の一日
倫理生活と「五つの誓」
(一)