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「わが子に与う」
改 訂 版 序
現代社会における諸問題のうち、最も身近な問題の一つとして、教育の問題
が挙げられ、近頃、各方面の人々の関心を引くようになってきましたことは、
民主主義社会における教育の重要性が、一層前面に現われてきた証左でありま
す。また、教育をめぐる問題は、一般常識によっても処理し得るような些事が、
たちまち社会問題にまで発展し、また発展しようとする傾向にあるからでもあ
りましょう。
民主主義を徹底するには、
「自由平等」もさることながら、人は「謙虚」で
なければならないはずであります。一人一人は不完全なものという自覚に立っ
て、多くの人が協力し合うというのが民主主義の考え方ではなかったでしょう4
か。お互いに腹蔵なく話し合い、自分の主張に誤りがあれば、素直に相手の意
見に耳を傾け、それを受け入れていくのが民主主義の原理であります。謙虚さ
を欠いた「自主」などというものはなく、それは「独善」でしかあり得ません。
昔は教育は人といわれていました。教育する人と教育される人が、常に愛と
尊敬に結ばれて、そこに真の教育効果が上がっていたと思います。時代と共に
教育技術も進歩し、その制度も改められていきますが、しかし、教育者と被教
育者の立場は常に変わるものではありません。ここに学ぶ者の倫理があり、教
える者の倫理があります。
本書は、かつて私が学生を持つ親として、また学生を持つ多くの親と共に、
実践倫理の立場から全国各地で研究実践した成果の記録「わが子に与う」の改
訂版であり、昭和二十九年初版以来、多くの家庭をうるおしてきた伝統を、さ
らに光輝あらしめるべく、新しい感覚で倫理の精髄を加筆したものであり、明
日の世代を担う子どもたちのよりよい将来のために、また親や教師の、子ども
を導くための心の糧ともなれば幸いであります。5
昭和四十三年秋
吉 祥 寺 に て
著
者
識6
「倫理実践の第一歩」
ま え が き
「理論よりも実際を優先に」という考え方は、現代人の誰もが持っているの
ではありますまいか。現代人の生活に溶け込み、それにふさわしい行為と良識
とをもたらし、秩序ある平和な社会を理想とする、倫理のあり方もまた実践が
倫理(生活)の道によって、正しく、強く、明るい生活を求め、それによっ
優先でなければなりません。
て少なくとも現在より幸福でありたいことを望まれるならば、まず倫理の実践
に一歩を踏み入れ、身をもって体験されることを望みます。それには日々、真
剣な精進に励み、幸福の決勝点に到達するまでは、決して挫折しないという、
初めの決心、しっかりした心構えが大切であります。いうまでもなく、心に迷7
いが出たり、途中で放棄するようなことでは、幸福への道は開けません。倫理
実践の方法には、一直線にゴールへと猛進するものもあり、牛の歩みのように
一歩一歩を着実に運ぶものもありますが、結局はその人その人の出発の心構え
のあり方いかんが、最後の心境をもたらすといえるのであります。
この小冊子は、多忙の私の身にとり、思うにまかせぬ点も多々ありますが、
哲
彦
識
皆様の倫理実践の手引きともなり、また日常生活の糧ともなれば何よりの幸い
と思います。
昭和三十二年五月三日
社団法人 実践倫理宏正会創設
廣
十一周年の佳き日に際して
上8
改訂新版の刊行に際して
実践倫理叢書の軽装版発行は、多年の課題であり、各方面より刊行が待たれ
たのでありましたが、このたび私の、抜本的監修のもと、いささか加筆訂正を
加え、このような、より親しみ易い形で江湖にまみえますことは、既往の重版
実績の上に、さらに大いなる声望を加え得るものと自負し、喜び一入のものが
あります。
ご承知の如く本叢書は、私の父、初代上廣哲彦会長が、旧くは三十数年前、
実践倫理開顕、本会創立の余勢を駆り、早々の間に執筆彫琢をし、刊行後は倫
理文化の明けの明星として、幾多の同学の士に希望を与え続けて、今日に至っ
た書籍であります。9
実践倫理の不変永続の理想から、いま新時代即応の実践学習の書、座右の書
として、改めて真価を世に問う企てとすべく、読破体現の上は、一人でも多く
同憂の士にご吹聴ご推輓くださることが、社会風教の上から好ましいわけであ
ります。
本書刊行には細かく意を用いておりますが、尚ご高見を得て、より完璧なる
上
廣
榮
治
識
国民心の原典へと版を重ねてまいりたく、心からのご協力を期待してやみませ
ん。
昭和五十三年七月二十日
会 長10
目
家庭教育の新しい姿勢
受験に対する心構え
学びの原理とは
学びの根底にあるもの
学びの精神と目的
⟒⟏
⟎⟋
⟌⟑
⟋⟎
⟊⟋
⟌
次
教育者の本道
⟊
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わが子に与う
子弟善導の主役