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序
廃墟の中から立ち上がって、わずか十数年の間に、日本経済の伸長はまこと
に目覚ましいものがありました。都会には大ビルディングが次々に立ち並び、
産業も貿易も、拡大の一途をたどりつつある今日の大発展を見るとき、当時の
誰にも考えられなかったことでありましょう。したがって、国民の所得も豊か
になり、衣食も充ち足りた生活になりつつあると思われます。生活水準が上が
るということは、国民の努力と時間とを要すれば、困難な事態も、やがては乗
り切れるといえるかもしれません。
古い諺に「衣食足って礼節を知る」とあります。生活が豊かになれば、礼儀
も節度も自ずとわきまえるという意味でありましょうが、しかし、ひとたび退4
廃 し た 社 会 道 義 は、今 日 な お 容 易 に 回 復 し そ う も あ り ま せ ん。衣 食 の 足 り な
かった頃のそれと比較して、果たしてどれだけの進歩が見られるかといえば、
遅々として進まず、未だ乱脈時代であるといえます。一つの社会的難関に直面
しているとも思えます。
私は、昭和二十一年宏正会を創設以来、実践倫理(生活倫理)による社会道
義の確立を提唱し、不自然な生活態度から不幸に陥る人々に、真実に目覚めて、
倫理の実践に励むことが、人としての生活の道であることを説き、家庭愛和を
基礎とした、平和社会の建設を目指して微力を傾け、東奔西走してきたのであ
本書は、その間に全国各地において講演したものの速記録の一部と、本会機
ります。
関誌『宏正』に発表した倫話の一部を収録したもので、基礎編、社会生活編、
家庭生活編と三部に分類したものの、一つ一つの項目は、それぞれ関連を持つ
ものであります。本会の趣旨を諒とせられ、道義の高揚ならびに、人づくり、
国づくりの一助として愛読くだされば幸いであります。5
昭和三十七年十二月
吉 祥 寺 に て
著
者
識6
改訂新版の刊行に際して
実践倫理叢書の軽装版発行は、多年の課題であり、各方面より刊行が待たれ
たのでありましたが、このたび私の、抜本的監修のもと、いささか加筆訂正を
加え、このような、より親しみ易い形で江湖にまみえますことは、既往の重版
実績の上に、さらに大いなる声望を加え得るものと自負し、喜び一入のものが
あります。
ご承知の如く本叢書は、私の父、初代上廣哲彦会長が、旧くは三十数年前、
実践倫理開顕、本会創立の余勢を駆り、早々の間に執筆彫琢をし、刊行後は倫
理文化の明けの明星として、幾多の同学の士に希望を与え続けて、今日に至っ
た書籍であります。7
実践倫理の不変永続の理想から、いま新時代即応の実践学習の書、座右の書
として、改めて真価を世に問う企てとすべく、読破体現の上は、一人でも多く
同憂の士にご吹聴ご推輓くださることが、社会風教の上から好ましいわけであ
ります。
本書刊行には細かく意を用いておりますが、尚ご高見を得て、より完璧なる
上
廣
榮
治
識
国民心の原典へと版を重ねてまいりたく、心からのご協力を期待してやみませ
ん。
昭和五十三年五月三日
会 長8
基
倫理と科学
福祉国家創建への道
宏正会の根本精神
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次
今や倫理は国民常識である
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目
平和の楽土
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編
新しい愛国心
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礎
中道実践次
9 目
実践に命をかけよ
先見の明
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社 会 生 活 編
言葉と生活
言葉と社会
誤解と正解
言葉にゆとりを
神秘の解剖
共同体の倫理
現実肯定の精神
平和の種子を
民主社会の基盤と道義
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言葉と文化
不幸化の責任10
生活の中の試験
苦難排除の精進
時代に合った婦人の歩み
第二の習性
幸福への道
習慣の原則
人間形成と倫理
静かなる精神革命
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家 庭 生 活 編
人とあり方